感染とバイオフィルムのはなし

バイオフィルム

バイオフィルムとは何のこと?

バイオフィルムとは、細菌やかび菌などの菌の集合体を取り囲むバリアのことです。微生物は自身の生存、増殖のためにムコ多糖類、アルギン酸、細胞外DNA、カルシウムやタンパク質など周囲のあらゆる材料をかき集めてねっとりしたバリアを作ります。バリアを張ってその中で菌が育ち数を増やします。要するに、このバイオフィルムというのは、菌が自助努力で作り上げたシェルターです。菌はバイオフィルムにすっぽり包まれて外部からの養分をたち、攻撃をかわし存分に成長します。
菌が増えたらバリアを突き破って周囲に広がります。バイオフィルムは慢性の感染症につきもので、病原体の8割がバイオフィルムを形成します。例えばピロリ菌や小腸のSIBOの原因菌、カンジダ菌、寄生虫、ライム病の原因菌であるボレリア菌もバイオフィルムを作ります。

バイオフィルムができるまでの流れ

元々人間の体は無菌ではなく、一人の人間の体には70兆個の微生物が共生しています。人間の体の細胞総数は36-40兆個で、70兆個の微生物の数を合わせて全部で100兆個になります。70兆個の微生物は人間の体に欠かせない集合体で、免疫や代謝や栄養素産生などの作用を行っています。微生物叢(マイクロバイオーム)です。このマイクロバイオームがバランスを崩したり、免疫低下や菌の持続的な侵入など悪条件が重なってしまった時などは病原菌が私たちの体内で繁殖します。
免疫が弱くなったところに繁殖しやすいカンジダ菌の例です。菌の集合体の周りの水色の部分
がバイオフィルムです。

バイオフィルムの形成の第1段階は、まずは表面付着です。バイオフィルムは、付着面のタンパク質のサポートで足場を固めます。
第2段階は菌が増殖を開始します。
第3段階は、バイオフィルムが周囲の物質を利用して、ぬるっとしたコーティング状のバリアを作ります。タンパク質、DNA、リポ多糖類と呼ばれる粘性物質など、周囲のあらゆる物質をかき集めてシェルタータイプのバリアを作ります。シェルター内で病原菌が成長、増殖します。
第4段階でバイオフィルムから病原菌が飛び出し、菌が他の部位に広がります。

歯垢、黒かび、ライム病、そしてアルツハイマーにもバイオフィルム

バイオフィルム

身近なバイオフィルムの例として、ぬるっとした歯の歯垢があります。これは虫歯菌の作ったバイオフィルムです。口の中は実際バイオフィルムだらけで、歯根管、親知らずを抜いた後の空洞、神経が死んだ歯や顎の骨の膿なども病原菌が溜まりそこにはバイオフィルムがもれなくついています。ですから歯磨き、親知らず抜去後のケア、太い重要な神経も通る大事な顎の骨のケアなども重要ということです。溜まってしまう病原菌は口の中の常在菌以外にも、ライム病の菌、寄生虫やカビの菌もあります。関節、副鼻腔、リンパ節、血管の壁のすきまや腸の中にもバイオフィルムが入り込みます。バイオフィルムに包まれて病原菌が成長、菌の集合体が勢いを増して、顎の神経や歯根の先から脳へ侵入することもあります。ですからカビやライム病の感染が慢性化すると、まずバイオフィルムのせいで厄介な治しにくい相手になるということ、また、脳や神経を侵されやすいということがいえます。アルツハイマー病発症のリスク因子としてライム病やカビの感染が知られています。アルツハイマー発症のリスク因子はアルミニウムが有名ですが、ライム病もメジャーなリスク因子です。
ライム病の菌は強靭なバイオフィルムを産生します。特に脳神経系、免疫系、関節、腸、ミトコンドリアに侵入して、バイオフィルムに包まれ長期間組織にとどまり感染拡大しながら各部位にダメージを与えます。ライム病の菌が腕などのマダニ刺し口から体に入り、約2週間後には菌が脳に到達、そして脳内侵入します。脳や神経に入ることができるのもバイオフィルムの存在のおかげだそうです。
カンジダ菌、アスペルギルス菌、スタキボトリス菌をはじめとするカビ菌やライム病以外にもバイオフィルムで守られる菌として、ピロリ菌、副鼻腔内の膿、小腸の過剰なガスを発生するsiboの原因菌があります。抗菌薬を投与すると耐性菌ができて薬が効かなくなります。治りにくい理由はバイオフィルムの関与のせいです。プラスミドというDNAの破片のパターンを何種類も持つ特定の菌は耐性ができやすいので格段に治しにくくなります。慢性のライム病は悪名高いptlsdという病態があります。ライム病の治療後も周期的に疲労、関節痛、ブレインフォグなどの症状が再発することです。PTLSD(post treatment lyme syndrome disease)というライム治療後症候群症というライム病の繰り返す再発にもバイオフィルムが密接に関与しています。

ではどのようにバイオフィルムに対処すれば良いの?

マイクロバイオーム改善、酸化療法、抗炎症(特に脳、腸、血管)、免疫サポート、バイオフィルム除去、オートファジー*強化、排出・解毒治療、血小板凝集抑制、重金属のキレーション治療などを組み合わせ、多角的に攻めます。その上で抗菌治療をします。そもそもバイオフィルムは菌側の免疫が構築したものです。相手が免疫を使ってきたので、こちらも十分な免疫力で対抗する必要があります。病原菌があるからといって抗生物質のみ服用してもあまり効果は得られません。一部の菌を殺菌できてもバイオフィルム全体を取り除かなければまた新しく菌が増殖して拡散するからです。

*オートファジーは、体内で自然に行われる解毒作用のことです。古くなったりダメージのある細胞を自ら分解して取り除き新しい細胞のためのスペースを確保します。一言で言うと自宅で行うリサイクルゴミ処理です。

参考文献
Schulze A, Mitterer F, Pombo JP, Schild S. Biofilms by bacterial human pathogens: Clinical relevance – development, composition and regulation – therapeutical strategies. Microb Cell. 2021 Feb 1;8(2):28-56.
(グラーツ大学オーストリア)
体内のさまざまな病原体のバイオフィルムについての論文。コレラ、出血性大腸菌、レジオネラ菌、結核のバイオフィルムの形成と慢性感染の流れがまとまっています。各器官、気管支、消化管(口腔、胃、小腸、大腸)、尿管、性器、耳、心臓、骨についての各部位に多く見られる病原体のバイオフィルム形成の例も取り上げています。インプラントや豊胸のシリコンや留置したカテーテルなどへのバイオフィルム形成の紹介もあります。慢性感染の病原体に対峙する時バイオフィルム対策が必須。
Vestby LK, Grønseth T, Simm R, Nesse LL. Bacterial Biofilm and its Role in the
Pathogenesis of Disease. Antibiotics (Basel). 2020 Feb 3;9(2):59.
(獣医学研究所、オスロ、ノルウェー)
Di Domenico EG, Cavallo I, Bordignon V, D’Agosto G, Pontone M, Trento E, Gallo MT, Prignano G, Pimpinelli F, Toma L, Ensoli F. The Emerging Role of Microbial Biofilm in Lyme Neuroborreliosis. Front Neurol. 2018 ライム病の周期的な再発、抗生物質耐性、さらに血液検査で慢性ライム病感染が見つかならないことについて、バイオフィルムが密接に関わることを論じています。
Aucott JN. Posttreatment Lyme disease syndrome. Infect Dis Clin North Am. 2015 Jun;29(2):309-23. PTLDS(post treatment lyme disease syndromeライム病治療後症候群、ライム病の治療後の再発現象)についてのまとめ

関連記事

  1. 添加物フリーレシピ(患者様E子様より)

  2. siboの腹部の写真

    SIBO 小腸細菌異常増殖症とは…??

  3. オーストラリア便り 第3弾

  4. 患者さまE子さんのアレルゲンフリーピザ

  5. \\スタッフAが発見!巷で流行りのドリンク//

  6. \肉好きな方にオススメ/

類似名称のクリニックにご注意ください。
PAGE TOP